I-Method

アウトローとベンチャー

第2部 アウトローの手口と封じ込め
 第3章 不法投棄ゴールドラッシュ
  1 大規模不法投棄…手口のデパート

1−1 リサイクル偽装…青森・岩手県境


 2002年に、青森・岩手県境で88万立方メートルという過去最大規模の不法投棄現場が発覚し、2004年には岐阜市で57万立方メートルの現場が発覚した。
 さらに最終処分場の無許可拡大も、敦賀市、四日市市、宮城県村田町で次々と問題となり、敦賀市では84万立方メートル、四日市市では38万立方メートル、村田町では67万立方メートルが無許可拡大量と報告されている。
 こうした事件が次々と発覚するのを見ると、大規模不法投棄時代が幕を開けたように感じるが、実は5年以上活動していた現場が多く、中には20年以上も活動していた現場もあり、市民団体などがかなり以前から問題にしてきた現場が大半である。
 過去の大規模不法投棄現場が今頃になって事件化されることが相次いでいるのは、産廃業界の環境変化によって悪質産廃業者の経営基盤が揺らいできたこと、行政や警察の取締りが厳しくなってきたこと、特定産業廃棄物特別措置法が施行されて撤去費用の国庫補助が上乗せされたことなどの相乗効果によるものである。
 最終処分場の無許可拡大や自社処分場の偽装行為などは、これからも続くかもしれないが、大規模不法投棄が全盛期を迎えることはない。

 面積27ヘクタール、投棄量88万立方メートルという破格の規模で話題を集めた青森・岩手県境不法投棄は、香川県豊島以来のエポックメーキングな現場となった。
 ここに埋め立てられた廃棄物の多くは、埼玉県など首都圏の中間処理施設を経由したものであり、最終処分場の無許可拡大、RDFのリサイクル偽装、コンポスト化によるリサイクル偽装、有機溶剤の不法投棄、医療系廃棄物の不法投棄、行政の監視がやりにくい県境という立地条件など、まさに不法投棄の手口のデパートと言える現場だった。

 この事件をきっかけにして、不法投棄現場の撤去について、環境省の方針が大きく転換した。
 特定産業廃棄物特別措置法がこの現場のために制定され、適用第一号となったことであり、過去の不法投棄現場の撤去費用(行政代執行費用)について、国庫負担が増額された。
 また、排出事業者の責任追及が徹底して行われ、1万社以上が調査の対象となり、これまでに無許可の収集運搬業者に委託するなどの問題が確認された19社に対して、878トンの措置命令(撤去命令)が出されている。これは不法投棄量の0.1%にすぎないので、法的に筋を通すという意義や排出事業者に対するアナウンス効果はあったものの、担当者の大変な労苦に見合う撤去への貢献はあまりなかった。
 措置命令の厳密性にこだわったので、命令を受けなかった排出事業者からの自主撤去の申し出は、当初断っていた。しかし、環境省の方針が転換し、2004年8月に1社からの申し出を受け入れることになった。

 行政代執行の予算は660億円という莫大な額になっており、撤去費用でも香川県豊島を上回った。これは岩手県側で完全撤去を県民に約束したため、青森県側でもムードとして完全撤去を約束せざるを得なくなったためである。完全撤去が最善の選択だったかどうかは、科学的には明らかではない。両県が共同事業によらずに、別々に工事を施工していることも釈然としない。
 何が埋まっているか完全にわからない段階での撤去費用の見積もりは、安全率をかなりとってある。したがって詳細が明らかになってから見積もりをやりなおせば、減額の余地が大きい。撤去先についても、市町村の清掃工場やセメント工場などに協力を求めれば、かなり単価を下げられる。100億円くらいの設計変更は可能かもしれない。 
 あれほど熱心に報じていたマスコミも、撤去が始まった後は、報道を打ち切ってしまい、もうこの問題は終わったという雰囲気になっている。しかし、実は現場の実態がわかってくるこれからが正念場ではないかという気がする。

 青森・岩手県境事件で痛感させられたのは、過去の不の遺産の解消の難しさである。環境省は、特定産業廃棄物特別措置法を10年間の時限立法として制定するとき、過去の不の遺産を一掃すると宣言し、予算総額を1000億円と見積もっていた。すでにこの額は使い切ってしまったが、負の遺産は解消するどころではない。不法投棄現場をすべて完全撤去していたら、1兆円でも足らない。
 特定産業廃棄物特別措置法の見直しも含めて、負の遺産の解消策を立て直さなければならない。

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