I-Method

アウトローとベンチャー

第2部 アウトローの手口と封じ込め
 第3章 不法投棄ゴールドラッシュ
  2 影の黒幕…法律をかいくぐる自社処分場ブローカーの手口

2−1 自社処分場ブローカー…銚子市


 穴屋や一発屋が不法投棄現場の主役であることは有名になったが、穴屋に適地を斡旋する自社処分場ブローカーの存在は、それほど注目されなかった。
 銚子市で暗躍していた穴屋は、5〜10万立法メートルの現場を次々に開設して荒稼ぎしていた。一つの現場をあまり大きくしないのは、現場の数を多くして警察や行政のパトロールを撹乱し、警察の内偵が始まる前に、現場を終わりにしてしまうためだった。この点では、不法投棄は大規模だから悪質というものではない。巧妙な手口を駆使する不法投棄は事件化されていないのである。
 それでも1億円程度の利益を上げるには、10万立方メートル程度の廃棄物を埋め立てる必要があり、そのためには1ヘクタール程度の土地が必要となる。そこで適地の斡旋を専門にする不動産屋と結託することが普通だった。
 適地としては、土砂採取場跡地、谷津と呼ばれる崖地、畜産団地周辺の荒廃地などが狙われることが多かった。平坦な農地を掘り下げてしまうことも稀ではなかった。いわゆる自社処分場ブローカーは、こうした適地を排出事業者が自ら廃棄物を埋め立てるための自社処分場というたてまえでして斡旋した。こうしておけば結果的に不法投棄現場になっても累が及ばないからである。実際、銚子市の穴屋の現場には「自社小規模最終処分場」という看板がかかっていた。結果的に、ほとんどの穴屋は逮捕されたが、自社処分場ブローカーは逮捕されていない。
 自ら不法投棄に手を染めないというモラルハザードで生き延びてきた自社処分場ブローカーは、穴屋以上の大物なのである。

 自社処分場ブローカーは、もともとは最終処分場の開発に群がるゴロの一種だった。最終処分場の開発計画が持ち上がると、用地買収や地元対策を手伝ったり、自ら計画地を買い占めて高値で売り抜けるのが、処分場ゴロの手口である。
 しかし、最終処分場は許可を取るのが難しくて計画が頓挫することが多かった。そこで、ゴルフ場、別荘地、道路など、用地買収が虫食いのまま開発崩れとなった土地や、土砂採取場跡地などを買い叩いて、自社処分場として転売するようになり、不法投棄現場となるのを見て見ぬふりをするようになったのである。
 穴屋に適地を斡旋する自社処分場ブローカーの暗躍こそが、銚子市を産廃銀座にしてしまった真の原因だったのである。
 ほんとうに特定の中間処理施設の自社処分場として使用される場合には、自社処分場ブローカーが造成も手がけ、さらには埋め立て工事も任されることが通例だった。この場合、ダンプの搬入台数に応じた従量制の料金を徴収していた。また、広大な土地を小区画に区割りして、自社処分場団地として販売することも常套手段になっていた。しかし、手口が巧妙なため、無許可最終処分場として逮捕された例はなかった。
 銚子市で活躍していたプロ中のプロの自社処分場ブローカーには、特定の中間処理施設と10年以上も蜜月の関係を続け、地上げから処分場の造成・管理までを一括して請け負い、年間5千万円の所得を得ている者もいたし、最終処分場、自社処分場、不法投棄現場など、産廃がらみの土地の地主として必ず名を連ねる大物もいた。
 廃棄物処理法のウラのウラを知り尽くしている自社処分場ブローカーは、穴屋が消え去った現在でも、まだしたたかに生き残っており、漁夫の利を得つづけているのである。

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