I-Method

アウトローとベンチャー

第2部 アウトローの手口と封じ込め
 第3章 不法投棄ゴールドラッシュ
  1 大規模不法投棄…手口のデパート

1−2 金融業者の乗っ取り…岐阜市椿洞


 岐阜市の不法投棄は、中間処理業者がオーバーフローして受注した廃棄物を裏山に棄てた事件である。他の大規模不法投棄と同様に、投棄量がこれほどになるまで、どうして行政が止められなかったのかという点に、批判が集中した。
 裏山に埋めてしまうというのは、一見稚拙な手口に見える。しかしこれは、中間処理後の廃棄物は自社物として最終処分業の許可なく埋立処分してもいいという法律解釈を逆手にとった常套的な手口なのである。中間処理残渣や土砂の処分であると抗弁されると、行政としては、それを覆すのに時間がかかるのである。
 事件を起こした会社は、かつては岐阜県内でも優良企業に数えられていたが、資金繰りに困って、貸金業者に乗っ取られてしまった。それから薄利多売に経営方針が変わり、特定の収集運搬業者との結託や、搬入チケットの乱売などの手口を使った大量受注が始まり、処理しきれない産廃を裏山に不法投棄してしまったのである。
 このように産廃業者の買収をきっかけにして大量受注が始まることは珍しいことではない。搬入チケットの販売、マニフェストの前渡しなども、不法投棄の常套手段なのである。

 不法投棄が行われた裏山が、かつて道路建設の計画地だったことは、注目すべき特徴である。いわゆる開発崩れの土地だったのである。
 90年代以降、不法投棄が大規模化した背景には、バブル崩壊によってゴルフ場や別荘地などのリゾート開発崩れの土地が安価に放出されたこと、低金利に誘導されて住宅ミニバブルが起こったこと、建設不況で骨材としての土砂の需要がなくなり、建設機械やダンプの仕事がなくなったことなどの理由が複合している。
 日本は戦後、山野を切り開いてニュータウンを建設し、高速道路や新幹線を建設し、ダムや発電所を建設して、高度経済成長を続けてきた。こうした戦後の開発行政は、周知のように政治、行政、業界が結託したものであり、ヤクザも無関係ではなかった。
 産廃業界は建設業界のミニチュアのような業界であり、不法投棄は戦後の開発行政と無関係ではなく、むしろ開発錬金術が最後の最後に行き着いた終着駅なのである。土地を持てあました人、建設機械を持てあました人、ダンプを持てあました人が、もう何も仕事がなくなって、「それなら不法投棄でもやってみるか」と考えたのである。

 岐阜市の事件をきっかけとして、人口30万人程度の保健所設置市では、産廃行政はムリではないかという議論がおこり、廃棄物処理法が改正されことになったことは、この事件を香川県豊島や青森・岩手県境に次ぐエポックメーキングなものにした。
 これは岐阜市の財政力では、100億円以上と見積もられている完全撤去の費用を捻出できないという苦肉の策だったのだが、産廃行政を市から県に引き上げるというのは、地方分権の流れに逆行することであり、異論を出している自治体が少なくない。
 産業廃棄物行政を市の所管にするか、県の所管にするかということは、簡単には答が出せない問題である。産廃を環境問題と考えるなら、できるだけ基礎自治体(市町村)に権限を下ろしたほうがいい。環境はなによりも地域のものだからである。しかしこれを経済問題と考えるなら、都道府県でもまだ狭い。
 これからの産廃行政は、資源の循環という観点から、環境と経済を融合させていかなければならない。そのためには、物流圏という捉え方が重要である。その場合、動脈物流圏(素材・商品の流通)と、静脈物流圏(廃棄物の処分・再資源化)を結合させなければ、資源は循環させられず、産廃を排出する地域と産廃を処分する地域が分裂した一方通行のシステムになってしまう。
 こうした観点からは、基礎自治体の環境への取り組みを尊重しながら、廃棄物処理システムを広域物流圏に応じて再構築することが必要になる。

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