I-Method

アウトローとベンチャー

第1部 アウトローの二重性
 第1章 軽油密造シンジケート
  2 不正軽油の構造的背景

2−3 抜本的な対策


 ガソリンが蔵出税であるのに対して、軽油は引取税であるため、軽油製造行為に対して課税することができず、販売額を過小に申告しても、チェックが難しい。この盲点を解決するには、脱税がやりやすい引取税をやめて、脱税がやりにくい蔵出課税に変更することが必須である。しかし、引取税か蔵出課税かという選択肢は、生産地課税か、消費地課税かという選択肢になり、税率が同じでも自治体の税収の配分が違ってくる。理論的には、引取税は地域の人口に応じた税収になる。しかし、脱税や徴収コストの問題を考慮すると、蔵出税にしたからといって困る自治体はなさそうである。
 地方税では広域的な脱税事件に対応しにくいという問題を解決するには、軽油引取税を国税にすることも一つの方法である。
 軽油引取税を脱税している業者は、所得税や法人税の脱税も合わせて行っていることが多いので、現在の税制の下でも、国税庁が軽油密造施設に無関心なわけではないが、軽油引取税の脱税摘発に国税庁が本腰を入れられれば、脱税は減るに違いない。 地方税を国税にすることは地方分権の流れと逆行するので、実現できそうにないとしても、国税庁と地方自治体が、連携する体制を整えることは有効な対策になる。
 国と地方の税務当局の連携には、国税優先の原則が妨げになっている。この原則を外さないと、国税のために地方職員が働いていることになってしまう。逆に地方税のために国の職員が働くことは、国が地方を補完するという原則に齟齬するわけではないし、現に消費税では、地方税分も国税庁が徴収している。

 不正軽油の製造を止める最善の方法は、不正軽油の供給側の取締りではなく、需要側の取締りである。不正軽油を使ったドライバーを道路交通法で6ヶ月免停にすれば、怖くて不正軽油を使えなくなる。ダンプカーや大型トラックの売上げは1ヶ月80万円程度なので、6ヶ月免停は500万円の罰金を課したのと同じ効果がある。もしも免停のためにローンが返済できなくなれば、車を取られてしまう。ドライバーが一番怖いのは免停なのである。
 不正軽油を使うことができなくなれば、それを前提に下がっている運搬料や借上料が元に戻るから、運転手はほんとうは不正軽油がなくなっても困らない。
 過去には、デフレによって不正軽油が増加したが、最近の原油価格の上昇も、不正軽油が増える要因になる。アウトローは価格差につけこむのであり、価格差はデフレ時にもインフレ時にも拡大する。しかし、これ以上不正軽油が増えることは、石油業界にとっても、運輸業界にとっても、破滅の危機と捉えるべきである。

 不正軽油の原料となるA重油や灯油の大口購入者に対して、届出制や登録制を創設することも効果が期待できる対策である。
 石油流通業界の立入検査を行って、不正軽油製造施設への原料油の出荷と、そこからの買戻しを洗い出せば、不正軽油製造シンジケートの全貌を暴くことがる。現在は、だれもその全貌を知らないのである。
 原料油が手に入らなければ、不正軽油を製造することはできなくなる。石油業界は、不正軽油製造の実態は民間企業では調べようがないと言っているが、そんなことはない。毎日40キロリットルもの原料油を買い入れるのが誰なのかは、知っている。
 中央省庁、警察、税務署、消防署、自治体が連携して対応すれば、意外に簡単に全貌を解明し、解決策を発見できるはずだ。
 しかし、日本の行政機関は相互の情報交換に慎重すぎ、それが結果的にアウトローの構造をブラックボックスにしてしまっている。この秘密主義こそ、かえってアウトローの思う壺なのである。

先頭のページ 前のページ 次のページ 末尾のページ