I-Method

アウトローとベンチャー

第1部 アウトローの二重性
 第1章 軽油密造シンジケート
  2 不正軽油の構造的背景

2−1 軽油引取税の問題点


 20キロリットルのタンクローリー車1台不正軽油を製造すると、軽油引取税の脱税額は64万2千円にはる。このとき概ねドラム缶1本の硫酸ピッチが発生しているので、硫酸ピッチの発生量から、不正軽油製造量や脱税額を推定することもできる。全国でこれまでに5万本以上の硫酸ピッチが発見されているので、不正軽油製造量は、1000万キロリットル以上、脱税額は300億円以上と推定される。これまで脱税事件として摘発された額は約140億円であり、さらに脱税の摘発が相次いでいる。一業者の脱税額も10〜30億円と巨額になってきている。毎月のように新たな硫酸ピッチも発見されている。
 それでもこれは氷山の一角にすぎないし、硫酸ピッチを排出しない軽油密造の手口も増えてきている。犯罪統計の読み方の常識として、少なくとも数字を10倍して考える必要がある。したがって脱税額は少なくとも数千億円、多ければ1兆円を超えるということになる。しかも脱税額はそっくり利益になるのである。1兆円といえば、トヨタの利益にも相当する額である。

 軽油密造がはびこる最大の理由は、石油税によって石油製品の二重価格が政策的に誘導されていることにある。
 同じ石油から作っているのに、重油や灯油の税金は安く、軽油やガソリンの税金は高い。
 軽油引取税が高いのは都道府県の財源不足を補うためであり、ガソリン税が高いのは、道路特定財源をまかなうためである。とくにガソリン税は、道路族と呼ばれる保守系政治家と道路公団などの特殊法人ファミリー企業の利権と密接に結び付いていることが、かねてから指摘されてきた。
 軽油に比べてガソリンの密造が少ないのは、爆発の危険性が高いこと、自家用車用であること(大口販売が難しい)、国税であること(税務署の査察能力が高い)など、いくつかの理由がある。
 そこで、製造が簡単で爆発の危険も少なく、ディーゼルエンジン用燃料なので大口の自主流通ルートを確保でき、都道府県の査察能力が低い軽油が狙われているのである。ただし、不正ガソリンが全くないわけではなく、アルコールなどを混ぜた粗悪なガソリンなどが出回ることもある。

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