I-Method

アウトローとベンチャー

第1部 アウトローの二重性
 第1章 軽油密造シンジケート
  1 不正軽油製造と硫酸ピッチの不法投棄

1−2 不法投棄のルートと相場


 硫酸ピッチの不法投棄には、不正軽油製造施設から数千本単位の処理を受注して貸倉庫などに大量保管する一次業者、無許可で中和処理や運搬を行う二次業者、トラック一台50本程度の不法投棄を行う三次業者が役割を分担して広域的に行われている。
 特別管理産業廃棄物の処分ができる正規の処理施設の硫酸ピッチの処分料金は、ドラム缶一本あたり5万円程度だ。
 これに対して不法投棄ルートの一次業者が受け取る処分料金は、正規の半額のドラム缶一本2万5千円程度だ。しかし、一次業者は自分では処分をやらず、二次業者、三次業者と流れていく途中で何度もピンハネされる。このため、三次業者が受け取る末端料金は1万円を割り込んでしまうことが普通である。それでも大型トラック1台(52〜55本程度積める)不法投棄すれば50万円程度になるので、通常の産廃の不法投棄に比べれば利益は大きい。通常の産廃では、末端のダンプ運転手は10トンダンプ1台10万円前後で処分を請け負い、不法投棄現場に3〜5万円で棄てる。
 首都圏ではこの程度の相場だが、不法投棄は地方へ行くほど安くなる。処分料金が高い硫酸ピッチは、それだけ遠方へ運ばれることも多く、首都圏の硫酸ピッチが東北地方へ運ばれたり、近畿へ運ばれたりすることも珍しくない。フェリーで北海道に運ばれた硫酸ピッチが、最後にはドラム缶1本700円という破格の安値で不法投棄された事件もあった。
 合法的に硫酸ピッチを処理できる施設は全国的にも数箇所に限られている。いくら処分料金が高いといっても、違法な施設から排出される廃棄物であるため、簡単に許可施設を増やすわけにもいかない。このため、不正ルートが増えてしまうのである。
 処理施設の不足は、不法投棄された硫酸ピッチを行政代執行で撤去しなければならない行政にとっても困った問題であり、適当な処理施設がなく、現地で応急的な無害化処理をしなければならない場合もある。

 2004年10月から改正廃棄物処理法による硫酸ピッチの取締りが強化され、ドラム缶を100本以上保管するだけで罰則の対象とされた。このため、早くも硫酸ピッチを出さない製造方法が開発されており、硫酸ピッチ問題に関しては、このまま取締りの手を緩めなければ、新たな発生は徐々に減少していくことが期待される。しかし、これは軽油引取税脱税の手口がより巧妙化していくことを意味している。
 不正軽油の需要がある限り、どんな取締りの網もかいくぐって、製造が続く。これは、麻薬、賭博、売春、密入国など、典型的なアウトローの組織犯罪と同じ構図である。クマリン以外の識別剤を使ったとしても、すぐに対応してしまうだろう。

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