I-Method

アウトローとベンチャー

第1部 アウトローの二重性
 第2章 社会の二重構造とアウトロー
  1 アウトローの二重性

1−1 二重性への志向


 アウトローは、その言葉が本質的に二重性を含意している。
 アウトロー(outlaw)は、法(law)に外れていること(out)であり、オモテに対するウラ、カタギに対するヤクザ、日向に対する日陰、光に対する闇、法律に対する無法、ホワイトに対するブラック、一人前に対する半端者、安定に対する無常として、自らを定義してきた。

 アウトローは、法律の隙間や空白を発見し、法システムを二重構造化する。行政法のさまざまな規制(許認可)は、結果として法的ダブルスタンダードを生み出す。
 法律は、アウトローを取り締まるための根拠になっていると同時に、アウトローが組織を永らえ、仕事を永らえるために根拠にもなっている。もしも取締りがなければ、アウトローはアウトローではなくなり、アウトロービジネスを独占することができなくなるからである。
 アウトローだけが、法的ダブルスタンダードは、成立根拠になっているわけではない。世界一法律の多い法律大国と呼ばれる日本は、世界一法律の矛盾が多い法的ダブルスタンダート大国でもあるのだ。立法、行政、司法の三権分立、象徴縦割り、中央集権と地方分権といった対立の構図は、結果的には、すべて法的ダブルスタンダートの根拠となっている。
 こうした社会システム、法システム、統治システム全体の二重構造の中に、アウトローの二重構造があるのである。

 アウトローが付け入るのは、理性と欲望という人間の本質的な二重性である。
 社会システムが、理性的に構築されているのに対して、アウトローは、人間の非理性的な側面である欲望、感情、病理、ルサンチマンに注目するのである。
 アウトローが、暴力、風俗、薬物、賭博などのビジネスを独占しているのは、これらを求めるのが人間の欲望であり、決して理性的に対処できないものだからである。
 理性では満たすことができない人間の欲望が、アウトローのニーズなのである。

 もちろん、アウトローだけが二重性を利用しているのではない。情報、土地、資本の分配が公平な市場などありえず、市場は必然的に二重性のジレンマに陥っている。あらゆる業界が、ある意味では市場の二重性によってビジネスを成立させていると言える。
 それどころか社会システムによって公認され、構造化された二重価格もある。談合価格、カルテル価格、官需価格と民需価格、元請価格と下請価格、独占価格、特許価格、ダンピング価格、内外価格差、許認可プレミアムなど、枚挙に暇がない。女性、外国人、パートタイマーなどの賃金差別も、二重価格の一種である。
 アウトローの視点とは、こうした二重性に目を向けることである。アウトロー組織の秘密も、アウトロービジネスの秘密も、この二重性の中に隠されており、さまざまな社会の差別、格差、矛盾が、アウトローの成立根拠となり、存在論となるのである。

先頭のページ 前のページ 次のページ 末尾のページ