I-Method

アウトローとベンチャー

第1部 アウトローの二重性
 第2章 社会の二重構造とアウトロー
  2 アウトローの社会的役割

2−2 アウトローの補完機能


 アウトローには、社会システムの欠陥を警告するのみならず、その欠陥を積極的に補完する機能もある。
 アウトローが社会システムの欠陥に対して補完機能を果たしている例は、産廃処理施設の不足を埋める不法投棄、遅々として進まない法手続きに代わって権利を迅速に整理するミンボー、銀行の貸し渋りを補完するさまざまな金融アウトローなど、枚挙に暇がない。およそアウトローの経済活動で、社会システムの欠陥と全く無関係なものはない。許認可制度と行政暴力、入札制度と談合、風営法と売春、賭博法とノミ行為、出資法とマネーロンダリング、証券取引法とインサイダー取引など、法システムや社会システムの破壊行為であるかに見えるアウトローも、その中に何かしら社会の矛盾を補完する作用があると言えないこともない。いわば、ウラの世界がオモテの世界を支えているという現実があるのである。

 アウトローの補完機能は、市場の需給ギャップの補填として典型的に現れる。法的規制が厳しい分野ほど、需給ギャップが拡大するため、アウトローが活躍する隙間が広くなる。
 日本で規制緩和が進まないのは、規制に守られた業界の抵抗のみならす、アウトローの抵抗があるためだといっていい。規制を守らないアウトローが、むしろ規制に守られているというのは皮肉なことだが、売春や麻薬などのアウトローのビジネスは、規制があるからこそ、規制を破るリスクの見返りが確保されているのである。
 規制によって需給ギャップが生じ、結果的には規制の届かないアウトローの世界に飲み込まれている業界には、廃棄物処理、金融、外国人出入国、物流などがある。
 これらの分野の規制緩和による市場の自由化は、ベンチャーが活躍する場を広げると同時に、アウトローが活躍する場を狭める。ここがアウトローとベンチャーの違いであるとも言える。

 アウトローに利用されている社会システムの欠陥を、合法的な手段で埋め、アウトローが表の経済を支えているという状況を打破しなければ、アウトローを排除することは決してできない。
 これは不可能なことではなく、道筋さえしっかりと確立すれば、アウトローは着実にオモテの世界へと転換していく。
 アウトローの補完機能を考えるとき、重要なことは違法か合法かという法的ドグマを棄てて、リアリズムに徹することである。アウトローを考えるとき、一番役に立たないのは、チンプな正義感を持ち出すことである。

先頭のページ 前のページ 次のページ 末尾のページ