I-Method

アウトローとベンチャー

第1部 アウトローの二重性
 第2章 社会の二重構造とアウトロー
  1 アウトローの二重性

1−3 アウトロー社会学


 アウトローの二重性は、社会(あるいは人)、法律、経済の3つの視点から捉えることができる。この3つの視点から、アウトロー社会学、アウトロー法学、アウトロー経済学の3つのアウトロー学の分野が成立する。
 3つのアウトロー学は、正統な社会学、法学、経済学のアンチテーゼであり、現実から出発するリアリズムと、実利を優先するマキアベリズムを重視する。
 アウトロー社会学は、アウトロー学の中の基礎論であり、アウトロー法学とアウトロー経済学は応用論である。
 アウトロー社会学は、逸脱行動社会学、犯罪社会学、マイノリティ社会学、アウトロー史学など、既存の学問領域としても成立しているし、文化人類学との関係も深い。
 本書で展開するアウトロー社会学は、アウトローを社会の矛盾から必然的に発生するものとしてとらえるのみにとどまらない。アウトローは、社会の矛盾した構造の中から生まれながら、その構造を脱構築する運動を含んでいる。それは社会システムの崩壊と保守のダイナミックな弁証法的関係としてとらえることができる。こうした視点に立つ本書のアウトロー社会学は、二重構造社会学、あるいは脱構築社会学と呼ぶのが相応しい。

 社会システムが完全ではありえないことは自明であり、社会の構成員が社会システムを完全に承認していないこともまた同様である。
 しかし、完全ではないからこそ、社会システムは、自らを保守する機能と、自らを改革する機能の弁証法的な葛藤の中で、完全性を志向する歴史的な運動を続けることになる。
 しかし、保守と革新の勢力が拮抗することはなく、いずれかが絶対的な優位性を持っていることが普通なので、この弁証法的な対立が止揚されて新しい勢力に転ずることは稀である。

 社会システムは、実質的には不完全だが、形式的には完全であることを装う。これが「悪法も法」という立場である。
 このため社会システムの形式的な機能は常に保守であることになる。保守機能の典型は政治システムであり、よほどの混乱がないかぎり、保守政党が与党となることが通例になる。革新政党が存在し、アウトサーダーとして政策批判をすることは必要なことだが、革新政党が政権奪取を訴えたとしても空しい。
 行政システム、警察システム、裁判システムといった統治機構もまた、社会システムに対して、常に保守的に機能するように構築されている。たとえ、独裁者が利益をむさぼるだけの腐敗した政権であったとしても、統治機構は、常に権力に対して従順である。統治機構は権力の報復が怖くてしたがっているのではなく、自らのDNAの中に保守機能が組み込まれているのである。このことは、行政の自己変革が難しい理由ともなっている。

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