I-Method

アウトローとベンチャー

第1部 アウトローの二重性
 第2章 社会の二重構造とアウトロー
  2 アウトローの社会的役割

2−1 アウトローの警告機能


 アウトローには、社会システムの不完全性すなわち欠陥や矛盾や不公正を、リスクとして顕在化させ、社会に弁証法的な葛藤と緊張を生じさせる作用がある。これがアウトローの警告機能である。もしもアウトローが社会の矛盾につけこむことがなかったら、この矛盾は顕在化されないままに放置されることになる。
 アウトローを追いかけていくと、様々な社会の矛盾へと案内される。これはアウトローのナビゲーション機能といってもいい。たとえばヤミ金、街金、システム金融などの金融アウトローを追いかけていくと、結局は金融システムの頂点である銀行の問題に行き着く。外国人犯罪を追いかけていると、入国管理の問題や在日の問題に行き着く。
 社会システムが潜在的に持っている欠陥は、犯罪という形で、もっとも露骨に顕在化する。犯罪には被害や損害が発生するという点で、直接的に社会システムを脅かすリスクとなる。このため、社会システムは、犯罪を撲滅させる組織としての警察組織の常設を必要とし、警察組織が犯罪を取り締まるための罰則を備えた法律を必要とするようになる。社会システムが完全ではありえないことを、アウトローが犯罪リスクという形で実現することによって、社会システムは完全性へと動機付けられるのである。

 アウトローの存在が社会の矛盾であると考える常識的な観点からは、警察力によってアウトローを排除すれば、社会の矛盾をなくせることになる。だが、結果として、アウトローは存在しているし、社会の矛盾もなくせていない。
 観点を逆転して、社会に矛盾があるから、そこにアウトローが侵入していると考えた場合、社会の矛盾を解消しないかぎり、どんなに警察力を強化したとしても、アウトローは排除できないことになる。アウトローの存在は、社会の矛盾そのものであるというよりも、矛盾の表象であり、警告であるということになるのである。
 このことは、少年犯罪(逸脱行動)と教育との関係を考えるとわかりやすい。少年犯罪は、社会の矛盾そのものであると同時に、社会の矛盾の表象なのである。

 アウトローが警告する社会システムの不完全性が、法律の不備という問題に矮小されてしまうと、新法や親刑罰の創設、既存の罰則の強化というアウトロー対策が出てくる。しかし、法律改正をいくら繰り返しても、アウトローを封じ込めることはできなかった。アウトローが警告しているのは、法律の不備ではなく、もっと大きな社会システムの本質的な不完全性なのであり、それは法律の条文だけをいくら完全にしても解決しない。
 アウトローが警告する社会システムの矛盾は、法律、政治、行政、司法のあらゆる分野に及び、歴史性、民族性、地域性、ジェンダーなど、社会のあらゆる局面に及ぶのである。

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