I-Method

アウトローとベンチャー

第3部 ベンチャーによるアウトローの超克
 第8章 産廃業界の再編
  1 産廃業界の現状

1−1 大企業の取り組み


 売上高1兆円の大手製造業者の産業廃棄物処理費は、年間100億円になる。この100億円は、リスクに転ずることもあるし、利益に転ずることもある。
 100億円がリスクに転ずるというのは、うかうかしていると産廃業者に騙されて不法投棄事件に巻き込まれ、撤去費用を負担させられ、最悪の場合にはマスコミから社名が報じられるということである。
 利益に転ずるというのは、リサイクル技術や資源ごみ輸出の進展により、廃棄物を資源として再生すれば、大幅なコストの削減ができる余地があるということである。増収は必ずしも増益には結びつかないが、コストの削減は、そっくり増益になり、同時にマネーフローも増加する。
 これまで日本の企業は、メーンバンクから評価される売上高の増加(シェアアップ)を重視してきたと言われる。しかし現在では、欧米企業と同様に、収益力やマネーフローが重要されるようになっている。収益力を高める一番の近道は、コストの削減なのである。
 さらにレアメタルなどの希少資源を確保するためにも、廃棄物を資源化することの重要性が増している。日本の家電メーカーの中には、中国で販売した携帯電話を、わざわざ日本の精錬所でリサイクルしているところもある。これは中国の環境に配慮しているという面もあるが、実はレアメタルを確保しているのである。

 かつて廃棄物のリサイクルは手作業が中心だったが、最近になって大型化、ハイテク化が急進展している。これまで重厚長大産業が培ってきた高温処理技術、大量処理技術の転用も盛んである。
 大企業の環境ビジネスへの参入には、ガス化溶融炉などのプラント建設、産業廃棄物処分業やリサイクル業への直接参入、産廃業者とのタイアップ、中国などとの資源ごみの輸出入があり、いずれも売上高100億円級のビッグビジネスとして成長している。
 現在は子会社による単独参入が多いが、施設の規模が巨大化し、投資額が巨額になるにつれて、同業者や産廃業者とのタイアップ事業(技術提携、共同出資)が本格化すると予想される。

鉄鋼業界は、従来から鉄スクラップを電炉でリサイクルしてきたが、容器包装リサイクル法が施行される前後から、廃プラスチック類をコークスの代用品として高炉に投入し、鉄の還元剤として利用する技術を本格的に導入した。
 鉄鋼業界が廃棄物処理に参入した当初、売上高5〜10億円の中小企業がひしめいていた廃棄物処理業界に、1兆円企業が割込んできたら、パニック的な大倒産が起こると心配する人もいた。しかし、結果的に、市場にはなんらの波風も立たなかった。それほど、中間処理はぜんぜん足らなかったのである。環境ビジネスは、いまや鉄鋼業界の収益の柱として成長しており、高温処理技術が応用でき製鉄用の酸素を流用できるガス化溶融炉(直接溶融炉)の実用化、バイオガスプラント、廃タイヤ油化プラントなど、新エネルギー分野の開発などが、多角的に展開されている。
 日本の産業界をリードしてきた鉄鋼業界の参入が成功したことを契機として、大企業が環境ビジネスに相次いで参入するようになった。
非鉄業界も、従来から廃自動車や廃家電のシュレッダーダスト、廃プリント基板などから、銅、アルミ、その他の希少金属(金、バナジウム、水銀など)を精錬してきたが、そのノウハウを生かして、産廃処理業への本格参入を始めている。最近の資源価格の高騰やレアメタル供給不安によって、非鉄リサイクルの収益率が大幅に向上しており、中国との玉(ぎょく)の奪い合いになっている。これは鉄スクラップ業界でも同様である。
紙パルプ業界は、古紙のリサイクルを長年続けてきた。その受注量は年間数百万トンになる。同時に溶解炉の熱源として廃プラスチック類を加工したRDF(廃プラスチック主体の再生固形燃料)やRPF(紙くずを混ぜてカロリーをコントロールし、口径を小さくして燃えやすくしたRDF)を受け入れており、良質の木くずはパルプ原料としても使用するようになっている。
セメント業界は、汚泥や焼却灰をセメント原料の代用品として受け入れている。セメントキルン(回転式の大型焼成炉)に投入すれば、どんな廃棄物でも完全燃焼してしまう。その処理能力はセメント業界全体で年間3000万トンにもなり、産廃業界最大のシェアを誇る。今や廃棄物はセメント原料の4割弱を占めるに至っている。

先頭のページ 前のページ 次のページ 末尾のページ