I-Method

アウトローとベンチャー

第3部 ベンチャーによるアウトローの超克
 第8章 産廃業界の再編
  2 二つの新機軸

2−1 経済産業省の「廃棄物・リサイクルガバナンス」


 「廃棄物・リサイクルガバナンス」は、産業廃棄物排出事業者ガイドラインの新編として、経済産業省が発表したもので、検討会には私も委員として加わった。内容については、経済産業省のホームページ、あるいは「ぎょうせい」から刊行される同名の図書を参照してほしい。
 ガバナンスというのは、統治、自治という意味で、コーポレート・ガンバナンスという用法が一般的である。
 廃棄物・リサイクルガバナンスにおいては、ガバナンスを、サプライチェーンの全体にわたる廃棄物のマネジメント、ステークホルダー対するリスクコミュニケーション、CSR(企業の社会的責任)、自律的なコンプライアンスなど、多彩な概念を総括する言葉として用いており、とくに企業トップへのコミットメントを重視している。
 一言で言えば、それは企業が全社的に主体性をもって廃棄物問題に対処し、社会的責任を果たしていくということである。
 廃棄物・リサイクルガバナンスは、青森・岩手県境不法投棄で、排出事業者責任が厳しく問われ、一部上場企業を含む排出事業者に対して措置命令が発せられ、社名が公表されたことを、一つの衝撃として重く受けとめ、排出事業者の廃棄物問題に対する対策を再構築し、リスクマネジメントを強化する目的で、検討を始めたものである。
 これは、廃棄物問題だけではなく、牛肉偽装詐欺、雪印ブランドの廃業、鳥インフルエンザ隠蔽、三菱自動車工業のリコール隠しなど、企業のコンプライアンスが問われる一連の不祥事とも関係の深い問題である。
 廃棄物・リサイクルガバナンスは、現場で守るべきガイドラインをはるかに超えて、哲学的とも言える高邁な議論に発展した。したがって、一読してすぐに全容が理解でき、実践できるというものではなく、各社がそれぞれにガバナンスを構築していくなかで、理念あるいは指針として参照すべきものであり、実践の中で解釈を創造していくべきものである。ある意味ではこの創造性こそが、ガバナンスの主眼とすることであると言える。

 この廃棄物・リサイクルガバナンスにとって重要な観点は、排出事業者と産廃業者が、対等の立場でパートナーシップを構築していかなければならないということである。
 これは、ともすれば疑心暗鬼になりがちな産廃業界に対するブラックのイメージを逆転するものである。
 もちろん、闇雲に産廃業者を信用しろと言っているのではなく、信頼関係を築くためのツールが、さまざまに提案されている。どのツールを選び、どのツールを改良していくかは、それぞれの企業次第ということになり、いくつかの例示はあるが、回答は示されていない。
 産廃業界の10兆円の市場規模は、決して小さくはない。自動車業界にはかなわないが、アパレル業界やデパート業界にも匹敵する規模である。すべての業界から産業廃棄物が排出されるのだから、産廃業界は産業界にとってもっとも重要なパートナーでなければならない。それをブラックなイメージのままで放置し、ただ法律の規制強化や、行政・警察の監視強化でがんじがらめに縛り付けるだけでは、何も進展しない。
 廃棄物・リサイクルガバナンスは、産業界からのアクションとして、この現状を打破し、産業界の独自のチャレンジとして、産業界と産廃業界の関係を再構築していくための提言である。これは産廃業界がかかえる問題を、産業界の問題として内部化しているとも言える。
 これまでの産業界は、産業廃棄物の処分を産廃業界に丸投げし、産業界の問題から切断してきた。その結果、産廃業界の処理能力が不足し、廃棄物がオーバーフローしているという現状に対して、産業界は何も手を打たないできたのである。
 しかし、排出事業者責任が厳しく問われるなか、不法投棄問題を産廃業界の責任であると言えなくなってきた。産廃業界がオーバーフローしている責任は、産業界にもないとは言えないのである。
 産業廃棄物の処分が終わるまで産業界が責任を持つということは、廃棄物処理法の最初に書かれていることだし、言うのは簡単である。しかし、それを実行するとなると、大海に小船で船出するような不安を覚える。かつては、産廃業界の構造や、不法投棄の構造は、産業界にとっては全くのブラックボックスだった。しかし、最近ではようやく霧に包まれていた産廃業界の現状が見えるようになってきた。
 廃棄物・リサイクルガバナンスは、産業界からの産廃業界再編のチャレンジを促すものであり、同時に検討が進められてきた産廃業界からのアクションである環境省の「産業廃棄物処理業優良化推進事業」と、期せずして呼応するものである。
 不法投棄という魔物の正体が暴露され、機が熟したからこそ、こうしたプロジェクトが同時に立ち上がってきたとも言える。

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