I-Method

アウトローとベンチャー

第3部 ベンチャーによるアウトローの超克
 第8章 産廃業界の再編
  3 アウトローのベンチャー化

3−2 M&Aによる業界再編


 産廃業界の再編は、最終的には、選ばれた大企業による寡占状態にまで至るものである。
 寡占化が進んだ業界では、トップ企業の売上高1兆円が一つの目標となる。これは現在の産廃業界のトップランナーの経営規模は100億円なので、これをさらに100倍にしなければならない。
 産廃業界の市場規模を10兆円に対して、1兆円企業のシェアは10%ということになる。こうした企業が10地域に1社ずつ存在する状態が、産廃業界の寡占化である。
 アメリカでは、M&Aによる産廃業界の再編が進み、売上高1兆円を超えるウェイストマネジメント(WM)社という独占業者が誕生した。これを日本の産廃業界再編のモデルとする学者もいる。しかし、最終処分料がトン20ドル程度と、日本の10分の1の相場であるアメリカで、最終処分場を買い占めることで成長したWM社は、EU型の循環型社会を目指す日本の環境ビジネスの方向性とはそぐわない。

 業界再編は、一般にはM&Aによって進められる。産廃業界のM&Aを専門にするコンサルタントも現れてきているが、株式市場を通じたM&Aが、アメリカより20年遅れていると言われる日本では、WM型の独占企業は、そう簡単には作れない。また、
ブラックのイメージがつきまとう業界であるため、一般投資家が敬遠しがちであることも否めない。
 以下、産廃業界再編の現状と将来の展望を概観してみたい。

1 買収
 産廃業者の許可の売買は、意外に頻繁に行われている。度重なる法律改正についていけなかったり、銀行の貸し渋りで資金繰りに窮する業者が多いせいである。
 施設だけを売買することも可能だが、産廃処理業の許可を新たに取らなければならないので、会社ごと売買し、役員を入れ替えることが一般的である。施設設置許可を取得しただけの段階で売買し、別の会社が施設を建設をすることも行われている。
 経営不振の産廃業者を買収するとなれば、経営を立て直す自信がなければならない。産廃業者が、大量受注と大量横流しで、利益を上げることができた時代には、産廃業者の売買には、右翼、総会屋、貸金業者などが介入してくることが多かった。しかし、大量横流しで簡単に儲けられる時代ではなくなっている。

2 乗っ取り
 担保がない産廃業者は銀行からの融資を受けられず、手形などによる業者間の資金融通や、ノンバンクを利用する。担保を取らないプロジェクトファイナンスは、大規模な新規事業でなければ使えない。
 ブラックの貸金業者や同業の産廃業者が、乗っ取りを狙って融資することも少なくない。乗っ取った業者は、会社の名義は変えずに、役員だけを派遣してくる。不法投棄が発覚しても逮捕を免れるため、真のオーナーがあえて役員にならない場合も多い。
 産廃業者が乗っ取られると、早期に資金を回収するため、大量受注が行われるようになることが多い。資金を融資した業者が、営業窓口を独占し、搬入チケットを前売りしてしまうこともよくある手口である。
 乗っ取りは、新規に建設中の最終処分場でも行われる。この場合、貸金業者は乗っ取る産廃業者に迂回融資を行う。搬入の権利を前売りして資金回収を行ってしまう点では、経営不振の業者の乗っ取りと同じである。

3 合併
 中小企業が多い産廃業者の合併は、いままであまり例がなかったし、合併の効果も小さかった。しかし、産廃業者がある程度の経営規模に成長し、業者間のシェア拡大競争が起こった場合には、合併が意味を持つようになるに違いない。

4 株式公開買付
 産廃業者は株式を公開していないことが多いので、公開買付はそもそも不可能である。まだまだM&Aは、日本の産業風土には定着していない。しかし、今後、株式公開する規模の産廃業者が増えることによって、株式市場を通じた業界再編が加速する可能性は十分にある。

5 子会社
 かつては不法投棄などの発覚を難しくするために、子会社を経由した取引を偽装する会社が多かった。廃棄物を子会社に再生品(有価物)として偽装売却して廃棄物処理法の適用を切断し、行政の立入検査を受けない子会社が残土処分場などの無許可施設に横流ししてしまうというのが、よくある手口だった。
 節税のために、子会社を設立し、設備、土地、人材などを子会社から借りたことにするのも、産廃業界やリサイクル業界の常套手段である。物流子会社を設立して、収集運搬業を独立させている業者も多い。
 現在では、産廃業者がリサイクル事業などを子会社を設立して始めることが多くなっている。

6 水平型共同出資
 排出事業者、産廃業者が、それぞれ同じ業界内の企業が水平的に共同出資する事業で、家電リサイクル法の共同出資などが典型である。

7 垂直型共同出資
 排出事業者と産廃業者が、垂直的に共同出資する事業である。建設業界では、建設リサイクル法の施行を受けて、ゼネコンやハウスメーカーと産廃業者の共同出資事業が進んでいる。

8 外国人と外資
 もともと廃棄物処理、し尿処理、スクラップ回収、中古品売買などは、在日の韓国・朝鮮人、中国・台湾人の多い業界だった。
 最近では、中国人バイヤーや中国系商社の新規参入が目立っており、ロシアや北朝鮮からの中古品や再生資源の買い付けも増えている。廃棄物の不正輸出もあいかわらず続いており、中古品を禁輸している国への迂回輸出も少なくない。
 今後は東南アジア、インド、中近東、アフリカなどとの関係が深まっていくに違いない。

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