I-Method

アウトローとベンチャー

第2部 アウトローの手口と封じ込め
 第4章 警察と行政の弱点
  1 警察の弱点

1−1 結果主義の裏側


 警察の特徴は、捜査に着手した事犯については徹底的に究明し、有罪にせよ無罪にせよ黒白をつけることにある。検挙という結果を出せなければ、途中の捜査がどんなに優秀でも、警察的には0点である。良くも悪しくも、警察は結果主義である。
 しかし、経済犯罪では、巧妙な偽装の手口を駆使し、犯罪になるかならないかボーダーライン上の事犯が膨大にある。このため、すべての事件に対応するには、人員が追いつかない。このため、告訴や告発に基づかずに、独自に捜査に着手する事犯は、犯罪全体のごく一部になる。
 捜査の対象を入り口で絞り込んでしまえば、数字の上で解決率や検挙率は高くなる。しかし、捜査対象にしていない事件が多いのだから、犯罪は減るどころか、バックグラウンドではかえって増えてしまうこともある。
 警察では「検挙に勝る防犯なし」というが、そのためには、事前に捜査対象を絞り込まないという前提が必要である。

 日本は先進国の中でも、まれにみるほど犯罪発生率が少ない国であり、この面からは、警察はアウトローをうまく封じ込めているように見える。
 その一方で、日本のヤクザは、アメリカのマフィアの何倍も構成員が多い。この面からは、警察はアウトローを封じ込めているとは言えない。日本のヤクザは「カタギに迷惑をかけない」という口実で、事実上の市民権を認められている。
 国税庁についても同じことが言える。日本は、先進国の中では脱税が少ない国であり、GDPに占める脱税所得(=現金経済)の割合は、5%程度と推定されている。他の先進国が10〜20%と推定されているのと比べると、半分以下である。
 しかし、その一方で、ヤクザは、税金を払いさえすればオモテの経済活動を堂々とやることができる。いくつかの法律には暴力団排除規定も置かれているが、妻や子や愛人を代表者にすれば許可を取得できるから、ほとんど空文と言っていい。
 日本のアウトロー経済の規模は、脱税所得だけでは計れない。国税庁は、脱税をうまく封じ込めていると言えるが、逆の見方をすれば、税金を払っているかぎり、アウトローの経済活動を容認しているとも言えるのである。

 警察が告訴・告発を待たなければ経済犯罪の捜査に着手しないのは、民事不介入の原則が厳密に守られているからである。すでに捜査に着手していても、和解が成立して告訴が取り下げられれば、捜査は中断してしまうことになる。
 この民事不介入が、アウトローの経済犯罪を増長している面があることは否めない。マルチ商法、投資詐欺、宗教偽装詐欺などでは、数百億円もの資金を騙し取った後に、ようやく司直の手に委ねられることが少なくない。警察が事件の拡大を未然に防止できなかった最大の理由は、民事不介入の原則があるからである。
 アウトローは、紙幣、有価証券(株券、ハイウェイカード、高速道路回数券)、身分証(パスポート、運転免許証、ビザ、クレジットカード、キャッシュカード)などの偽造、変造、詐取などのビジネスでも巨額の富を築いている。
 経済犯罪の取締りには、それぞれの分野について相当の知識を要する。すべての経済犯罪に対して、警察が自前で専門家を揃えることにも限界がある。警察から民事不介入の原則を取り上げることができないなら、警察に代わる組織によって、経済犯罪を監視する仕組みを作らなければ、経済犯罪をなくすことは難しい。

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