アウトローとベンチャー
第2部 アウトローの手口と封じ込め
第4章 警察と行政の弱点
3 三権分立と三つの窓口論 |
3−2 議会と行政の窓口の開かれ方
議会への陳情は、頻繁に行われている割には、法的に定められた市民の権利として確立していない。議会の中に市民の陳情を直接受け入れる常設の窓口があるわけではないし、陳情内容を調査する常勤の事務局員がいるわけでもない。このため、議会への陳情は、特定の議員の仲介によって議案とされることが一般的である。このことは、特定の議員とのコネクションがないと、陳情を取り上げてもらえないことを意味する。
議会の調査能力が不十分であることも問題で、結局、陳情を受けた議員は、行政の情報に頼ることになる。市民から陳情を受けた議員が、議会調査権の行使ではなく、任意に行政の担当者を議会に呼びつけ、行政情報を提供させるということが、国会でも地方議会でも一般化しているが、これは法的根拠を欠いた情報漏洩行為であり、職務権限の濫用であるとも言える。
議員の窓口は後援会のコネや口利き料などの利権がらみになりかねないので、結局、市民がだれでも不平を訴えられる窓口は行政しかないことになる。ところが、行政もまた、必ずしも市民の訴えに耳を貸さない場合が多かった。
行政には、行政不服審査法、行政手続法といった法律によって、市民の異議申し立ての機会を設けることが義務付けられているし、行政の対応に不服なら行政事件訴訟法によって裁判所に訴えることもできる。この点では窓口の法的位置付けが明確になっているように見える。
しかし、行政法は手続法であり、その規定の多くは、事業者が提出する申請書類や、事業者が守るべき管理基準に関するものであり、市民との対話を規定している条文はほとんどない。異議申し立ての窓口は、許認可の申請者に対して開かれているのであり、市民に開かれているわけではない。そこで行政は市民の意見を十分に聞いていないという批判をたびたび耳にすることになる。
たとえば、宅地開発や産業廃棄物処理施設の設置のような開発行為をしようとする場合、一日でも早く許可がほしい事業者は、毎日のように監督官庁に通って指導を仰ぐ。ところが、市民の意見は、事業者が一度住民に説明したことにすれば終わりである。行政の担当者がわざわざ自分から市民の意見を聞きに出かけることは、許認可の手続きには定められていない。
そこで市民から見ると、行政と事業者が癒着しているかのように見えてしまう。
そこで行政に市民の意見を聞いてもらうためには、行政に顔が聞く有力議員に頼んだ方が早いという成り行きになる。
ところが、市民が議員を頼んで行政に圧力をかければ、事業者も別の議員を頼むことになる。しばしば市民と事業者は、対立している党派に頼むため、結果的に、市民と事業者の対立は、市民と行政の対立に転化してしまう。対立党派の議員が介入することによって、問題は解決するどころか、ますますこじれていく。
政治改革とか、政治倫理とかいった言葉だけが踊っても、これまでなんの進歩も見られなかったのは、政治家の倫理の問題ではなく、議会が市民に開かれた窓口となっていないことに問題があったと考えることもできる。議会が市民に開かれていなければ、政治家は特定の企業や支援団体の声だけを聞くことになり、さらにその声に応えるには、議会ではなく、行政に圧力をかけざるをえない。そこには反倫理的な癒着がどうしても生まれざるを得ないのである。そうした土壌を変えないかぎり、政治倫理といっても空しいのである。
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