アウトローとベンチャー
第2部 アウトローの手口と封じ込め
第4章 警察と行政の弱点
1 警察の弱点 |
1−2 常識の限界
麻薬の撲滅、不法投棄の撲滅、ヤクザの撲滅など、アウトローに対する表向きのスローガンはいつも撲滅である。
しかし、実際にアウトローを撲滅できたためしはない。アウトローに対する現実的なスローガンは、封じ込めである。
封じ込めとは、一定の犯罪検挙率によって、一定の犯罪発生率を維持し、アウトローを社会の秩序を破壊しない程度の勢力にとどめることを意味する。
これは警察とアウトローの拮抗状態であるとも言える。
アウトローの勢力が、すでに相当に大きくなっているのに、警察が現状を保つことしかできない場合には、封じ込めているとは言わない。これは馴れ合いである。しかし、どこまでが封じ込めで、どこからが馴れ合いなのかは、恣意的にしか決められない微妙な問題である。
アウトローを犯罪、害悪、反道徳といったマイナーな存在として捉え、社会から抹殺すべき対象と考えるのは、アウトロー対策の常識である。
しかし、アウトローも犯罪のない社会という理想は素朴すぎるし、アウトローだけが社会問題の原因ではない。たとえば環境犯罪を撲滅しても、環境汚染がなくなるわけではない。合法的な経済活動からも、普通の市民生活からも、環境物質が出るからである。環境を一番汚染しているのは、産廃の不法投棄ではなく、農薬と洗剤であるという見方をしている人もいる。
環境問題については、持続可能な開発、循環型社会、ゼロエミッション、カーボンニュートラル(二酸化炭素の排出と吸収のバランス)といったさまざまな理想が提出されている。これらの理想を妨げるものがすべてアウトローであるとすると、アウトローの概念は極めて大きなものになり、文明や経済それ自体がアウトローということになってしまうだろう。
理想論対策の主眼は教育的効果であり、長期間続けることでボディブローのように効いてくるし、いつか社会の構造変革に結び付くものかもしれないが、アウトローを撲滅するための即効性は期待できない。
警察力の本質はアウトローの封じ込めにある。アウトローを封じ込めるには、新法の制定、法律の罰則の新設や刑罰の強化、取り締まり担当者の増員などが必要である。
ただし、罰則強化の効果を額面どおりに受け止めることはできない。法律の抜け道を駆使するのがアウトローの本領だからである。結果から見るかぎり、罰則強化でアウトローを封じ込めることができた例は少ない。たとえば総会屋を排除するための商法改正によって総会屋は激減したことになっているが、多彩な手口を駆使するミンボーへと転向しただけであり、総会屋が廃業したわけではない。
罰金刑にせよ懲役刑にせよ、せいぜい刑罰の上限の3分の1程度の量刑が多いため、罰則規定も額面どおりに受け止めることはできない。不法行為にかかる収益の没収や課税も、ほとんど行われていない。
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