I-Method

アウトローとベンチャー

第2部 アウトローの手口と封じ込め
 第4章 警察と行政の弱点
  3 三権分立と三つの窓口論

3−1 市民の窓口としての三権


 三権分立は、立法、行政、司法の三権力の分割によって専制政治を牽制するものだと説明されている。しかし、これは受験生レベルの認識である。
 多くの国が採用している議院内閣制は、いわば立法府と行政府の相乗りシステムであり、厳密には三権分立ではない。大統領制を採用している国でも、首相が組閣して行政を統括することが一般的であり、どの国でも三権分立は大きく修正されている。首相がいないアメリカのような国は、きわめて例外的である。このことはアメリカの二大政党を、大統領選挙キャンペーンのためのプロデュース組織という特殊な性格にしていることと無関係ではない。
 議院内閣制は本来、議会で多数の議席を占める与党が内閣を組織することによって、政権交代を可能にすると同時に、与党が行政を支配するシステムである。しかし、日本では大臣に人事権がなく、官僚トップの事務次官が事実上の人事権を掌握しているため、官僚優位の政官相乗りシステムに転化してしまっており、与党は行政を支配するのではなく、影響力を行使する存在になっている。野党でも行政に影響力を行使することはできるので、与党か野党かというより、政治家個人の影響力のほうが重要になっている。

 立法、行政、司法を、市民が公権力に異議申し立てをすることができる3つの窓口ととらえるのが、新しい三権分立の解釈である。
 市民は、法律や条例が不十分であると感じるときには議会に陳情し、許認可や補助金がほしい時には行政に申請し、違法行為があれば警察や裁判所に訴える。
 市民は一つの問題に対して同時に三つの窓口に訴えることもできる。たとえば産業廃棄物処理施設の建設に反対だという場合にも、三つの訴え方がある。一つは国会や地方議会に陳情し、施設建設が難しくなるような法律や条例を制定してもらう方法である。もう一つは、行政法の手続きで定められている地権者や住民の同意を与えない方法である。最後の一つは裁判所に建設工事差し止めの仮処分申請や、許可取消の訴訟提起をする方法である。
 しかしながら、議院内閣制とか大統領制とかいう言葉の意味をいくら研究し、あるいは三権が具体的にどんな組織になっているかをいくら研究したところで、窓口としての三権の意味は見えてこない。三権が市民のための3つの窓口だという解釈は、法理としては確立しておらず、市民のための窓口として三権を構築している国は一つもないからである。

先頭のページ 前のページ 次のページ 末尾のページ