I-Method

アウトローとベンチャー

第2部 アウトローの手口と封じ込め
 第5章 情報がアウトローを封じ込める
  2 自律的コンプライアンス

2−3 アウトローからの自律としてのコンプライアンス


 大正デモクラシーの時代から、日本の企業はスト破りを右翼に依頼し、アウトローとの関係を深めてきた。戦後の民主化の時代にも、企業はゼネストの排除や工場のロックアウトを右翼に依頼した。
 水俣病を起こしたチッソは、右翼に依頼して株主総会から市民を排除し、総会屋という言葉を世界のメディアに知らしめてしまった。水俣病という最悪の公害病を引き起こしたのみならず、それを隠蔽するために著名な学者を買収し、政治家を使って官僚に圧力をかけ、右翼を使って市民運動を排除したのだ。これこそは企業の反社会的な活動の典型である。
 だが、チッソのみならず、日本企業には、多かれ少なかれ、似たような性格があったことを否定できない。HIVウイルスに汚染された血液製剤を廃棄することによる損害を惜しむ製薬会社のために、学者や官僚が故意に対策を遅らせたことが疑われている薬害エイズの問題は、水俣病の構図とそっくり同じに見える。
 これからますます危険性が高まっていくのが、核施設の事故である。放射能漏れ事故や臨界事故が起きたときに、姑息な隠ぺい工作を許さないようなシステムを構築しておくこと、あるいは隠ぺい工作が発覚したときは、企業が存続できないほどのダメージを与えるシステムを構築しておくことは、結果として、事故を未然に防止する真摯な姿勢を促すことになる。
 そのために重要なのは、政治家をあてにせず、市民に直接情報を公開し、市民との信頼関係に基づくコミュニケーションによって問題解決の方法を探すことである。これがリスクコミュニケーションである。
 政治家や右翼を使うことは、今日的にはリスクをかえって広げるだけになりかねない。

 自主防衛は、あらゆる分野のトレンドになりつつある。警備保障会社の業務は急拡大しており、防犯錠、防犯サッシ、監視カメラ、赤外線監視装置などのさまざまな防犯グッズも飛ぶように売られている。住宅業界は、セキュリティを高めた住宅やマンションを販売し、防犯セミナーも盛況である。さらに自警団などの住民組織が、犯罪やアウトローに対抗することも、各地で見られるようになっている。。
 自主防衛は警察力に代わるものではないが、自主防衛が、ある特定の地域や業界からアウトローを排除することに成功した例は少なくない。その典型は、銚子市森戸地区の不法投棄自警団の結成である。この自警団の活動によって、森戸地区の不法投棄はストップしたのである。だが、他の地区での同様の試みの大半は成功しなかった。森戸地区では、住民が警察にも行政にも頼らず、自ら連夜のパトロールと張り込みを実施し、体を張って不法投棄のダンプを阻止したのである。
 アウトローは警察や行政がばらばらに取り締まりを実施している間は、その隙をかいくぐって活動を続ける。しかし、企業や住民が草の根の活動を実施するとかえって困惑することが多い。企業や住民はアウトローの被害者であると同時に、アウトローの顧客でもあるからである。こういう効果をわきまえて取り組めば、自主防衛対策は大きな成果を上げることができる。

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