I-Method

アウトローとベンチャー

第2部 アウトローの手口と封じ込め
 第5章 情報がアウトローを封じ込める
  3 戦略的CSR

3−2 オモテとウラのバランスとしてのCSR


 そもそもアウトローは、企業のオモテとウラの隙間に付け込むのが仕事である。もしも企業がウラをオモテにしてしまい、ネガティブ情報を隠蔽せずに、むしろそれを積極的に公開し、市民と話し合うことを、企業の戦略とするようになってしまったら、政治家の仕事も総会屋の仕事もなくなってしまうだろう。逆に言えば、企業の隠蔽体質こそが、アウトローに仕事を与えてきたのである。
 CSRを、企業のウラとオモテのバランスを変えることだと定義するなら、それは一朝一夕にできることではないし、立派なCSR報告書を作成することで完成することでもない。
 いきなりウラのない会社を作ろうとしても、できることではない。ウラをオモテに変え、両者のバランスを変えていくことは、日々のチャレンジの積み重ねによって達成していく永遠のテーマである。これは企業風土を変えてく運動なのである。
 CSRを一時のブームやパフォーマンスで終わらせないことは、アウトローに対する大きなプレッシャーになるはずである。CSRは、自律的コンプライアンス、リスクコミュニケーションとあいまって、政治家や右翼の影響力や不当な介入を排除する脱アウトローの基本戦略になるのである。

 コンプライアンスが、受動的に法律を守ることではなく、行政指導から自律して法律の解釈にチャレンジすることであるように、CSR(企業の社会的責任)も、ステークホルダー(利害関係者)の求めに応じて、出したくない情報をしぶしぶ公開する(ステークホルダー・コミュニケーション)といったことではなく、企業の情報戦略として積極的な意味がある。
 これまでウラだった情報をオモテにすれば、行政からも攻められ、顧客、株主、従業員、地域住民からも攻められる。ウラの情報は、しばしば違法行為を含んでいるから、コンプライアンスも問題にされることになる。
 情報公開の結果として起こってくる問題に対処するためのSRI(社会的責任投資)も必要になる。しかし、こうした情報公開によって、ステークホルダーとの信頼関係が生まれるという積極的な効果がある。この利益が情報公開による投資額や損失額を上回れば、CSRには、戦略的な意味があったことになる。
 CSRとは、企業のウラ情報あるいはネガティブな情報を、企業のオモテの情報あるいはポジティブな情報に転換させていく、戦略的広報活動なのである。

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