I-Method

アウトローとベンチャー

第3部 ベンチャーによるアウトローの超克
 第7章 価格差戦略
  1 不法投棄と需給ギャップ

1−1 不法投棄の相場観


 千葉県の不法投棄現場の監視担当(いわゆる産廃Gメン)となってまだ間もないころ、私は銚子市の現場で捕まえたダンプの運転手に、いくらで産廃を棄てているのかとたまたま聞いてみた。
 運転手は「2万5千円に決まってんじゃないか。どこの棄て場だって同じだよ」と、バカにしたように答えた。
 私はハンマーで頭を殴られたような衝撃を感じた。不法投棄にも相場があるということすら知らないで、不法投棄を取り締まっている自分が恥ずかしかった。こんなことで不法投棄をなくせるはずがないと痛感した。
 それからは運転手を捕まえるたびにかならず相場を聞くことにした。確かにみんな2万5千円だと答えた。これは深箱、深ダンプなどと現場で呼ばれている、積載容量が30〜33立法メートルもある産廃専用ダンプ1台あたりの棄て料(棄て場代)である。
 ところがしばらくすると、棄て料の相場は2万円に下がり、1万5千円に下がり、それからまたしばらくすると3万円に戻った。棄て場の数が増えると相場は過当競争で下落し、取締りが厳しくなると捨て場が足らなくなって相場は上昇しているようだった。数年後に相場が5万円を超える頃には、千葉県の不法投棄はもう峠を越していた。
 不法投棄の相場が、最終処分場の料金と連動しているという構造にも気付いた。この価格差が不法投棄の利益の源泉だった。
 常識的には、料金の安い不法投棄のほうが悪質だと思われているのだが、最終処分場にだって環境汚染もあれば、不正行為もあった。こうした現状を踏まえると、むしろ不法投棄が安いのではなく、最終処分が高いのではないかと疑いたくなった。穴を掘って廃棄物を埋めているのは、どちらも同じなのに、10倍も価格が違うのだから、ぼろ儲けしているのは、不法投棄現場ではなく、むしろ最終処分場のほうなのかもしれない。そこには不法投棄以上に汚れた利権の構造があったのだ。

 法律による規制や取締りが、かえって二重価格構造を生み出し、高い価格と安い価格のどちらにもアウトローの利権を生じさせているという構造的な観点は、こうした現場の経験から生まれた。低価格の不法投棄がアウトローのビジネスだというのはわかりやすいが、高価格の最終処分場もアウトローと無関係とは言えない。むしろ最終処分場とかかわっているアウトローのほうが大物であり、政治家や右翼の利権ともつながっている。
 不法投棄に構造があることを発見してから、私の不法投棄に対する認識は急進展した。その成果は2002年12月に出版した「産廃コネクション」に結実した。その原点は「どこでも2万5千円に決まってんじゃないか」という不法投棄現場で聞いた一言の衝撃力だった。この言葉は結果的には間違っていたが、深いところで不法投棄の構造を言い当てていた。

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