I-Method

アウトローとベンチャー

第3部 ベンチャーによるアウトローの超克
 第7章 価格差戦略
  1 不法投棄と需給ギャップ

1−2 需給ギャップを埋める不法投棄


 産業廃棄物の不法投棄は必要悪なのだと安易に言う人が今だに多い。不法投棄が産廃処理システムの需給のギャップを埋め合ていると言いたいのだろう。
 毎日100万トン、年間4億トン発生するとされる産業廃棄物は、正規の処理施設が足らないからといって、工場内に積み上げておくわけにはいかない。しかし、実際にはちゃんと正規の業者に産廃が引き取られており、処理施設の不足は表面化していない。許可業者が処理能力を超えて大量の産廃処理を受注し、オーバーフロー分を無許可業者に横流しするという構造があったから、不法投棄は表面かしなかったのである。いわば不法投棄は正規の産廃処理の構造を補完していたのである。不法投棄が産廃業界の構造の中にしっかりと組み込まれていることは、日本社会や日本経済の縮図を見るような思いがする。

 産廃処理の需給ギャップは、市民運動とも無関係ではなかった。不法投棄を撲滅したり、最終処分場の建設を差し止めたり、悪徳産廃業者を締め出したりするために、市民運動が規制強化を促すと、新規の施設設置が困難になり、結果的に需給がタイトになる。それは結局、アウトローの産廃処理を増長させたり、行政の許可手続きへの政治家や右翼の介入を増長させたりするという逆効果になっていたのである。
 これは産廃処理施設の建設だけではなく、原子力発電所でも、ダムでも、高速道路でも、どんな公共事業でも言えることであり、市民運動は、結果的にはアウトローや政治家を利するという皮肉な結果になってしまったのである。
 しかし、廃棄物処理法の規制強化は、不法投棄という形で市民生活を脅かす結果になりかねないのだから、単なる利権の問題ではない。
 このジレンマを解決するには、規制強化による需給ギャップを補完する政策が必要だった。この政策が足らなかったために、需給ギャップをアウトローが補完することになったのである。

 廃棄物処理法(廃掃法)は、1970年に議員立法によって旧清掃法を廃止して成立した。この法律の誕生と同時に、行政から許可を得て産業廃棄物を処理する業界として、「産廃業界」が誕生し、同時に許可を得ない産業廃棄物の処理が「不法投棄」として誕生した。つまり、産廃業界と不法投棄は双子の兄弟である。
 産業廃棄物は許可施設で処理しなければならないということは、許可施設の不足という問題に直結する。この問題を回避するために、既存の施設や既存の処理方法を容認するさまざまな甘い経過措置が取られた。この甘さが、廃棄物処理法をザル法の典型と呼ばれるものにしてしまい、その後の不法投棄問題の原因を自ら作ってしまった。いわば不法投棄問題は、廃棄物処理法が自ら招いた問題なのである。

 廃棄物処理法がザル法と言われる所以は、既存施設を許可施設とみなす「みなし許可」、基準未満の施設の許可を不用とする「ミニ処分場」、自社の廃棄物の処分を許可不用とする「自社処分場」、廃油を土と混ぜて処分してよいとする特例(現在は廃止)、海洋投棄の容認(同)、安定型最終処分への混合廃棄物(シュレッダーダストなど)の埋め立ての容認(同)などがあり、その中でもとくにミニ処分場と自社処分は、不法投棄の最大の抜け道となり、現在もなお続いている。
 意図した結果ではなかったとしても、廃棄物処理法の中には、最初から不法投棄につけこまれる隙間が用意されていたのであり、その隙間をアウトローが埋め続けてきたのである。

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