I-Method

アウトローとベンチャー

第3部 ベンチャーによるアウトローの超克
 第7章 価格差戦略
  3 二重価格の解消

3−2 擬似社会主義と二重価格の構造化


 完全に自由な市場では、すべての事業者が平等であり、アウトローが二重構造を既得権化する余地はない。
 市場が不完全であればあるほど、アウトローが侵入する余地は大きくなる。市場の自由化は、アウトロー対策として極めて有効である。
 理屈の上では、国が生産量も価格も決定してしまう計画経済にはアウトローが活動する余地はないはずである。しかし、実際には、社会主義国でも、資本主義国と動揺にアウトローの活動は活発であり、むしろ行政の汚職は多かった。これは国家による経済統制が、結局は二重価格の構造化に過ぎず、アウトローの侵入する余地が広がっていたからである。
 このことは、資本主義国でありながら、社会主義国であると揶揄されてきた日本経済に、アウトローが深く侵入していることと無関係ではない。

 擬似社会主義経済では、擬似的に一物一価が成立しているかに見えるが、実際には、価格は二重になっている。
 たとえば、公共事業の建設工事価格は、談合によって一物一価が成立しているかに見えるが、建設業界の内部では、下請け構造が、価格を多重化している。
 公定価格、公示価格、カルテル価格も、実勢価格との二重価格となっており、価格差の搾取が生じる。一般的には、実勢価格は公定価格よりも安いが、バブル崩壊後の地価急落時に、公示地価が実勢地価よりも高いという逆転現象が生じた。

 アウトローがつけこむ二重価格を生み出しているのは、擬似社会主義経済システムであり、法律や行政指導が、かえって二重価格を構造化している。
 二重価格が生じるには、需給にギャップがあることが必要だが、擬似社会主義経済システムによる供給の総量規制は、その最大の根拠になる。擬似社会主義経済システムは、一見すると一物一価を行政的に実現しているように見えるが、実際には規制価格と自由競争価格の二重価格を構造化しているのである。
 規制の強さは、産業ごとに異なり、規制の強い業界と、弱い業界の間のギャップも生み出す。規制の弱い業界では、自由競争によって価格低下と技術革新が促進するため、しだいに規制の強い業界の市場を侵食するようになり、これが一定レベルを超えると業界再編が起こる。
 時間は、情報の格差を介して二重価格を構造化する。情報技術の進展によって、情報のタイムラグが縮小し、これにともなって価格差も縮小しているが、情報の価格が下がったため、小さな価格差でも利益を生み出せるようになっている。これは証券市場に典型的に現れている。
 地域間の価格差は、生産地と消費地の物流コストが原因であるとされるが、割高な高速道路料金や燃料費が、割高な物流コストの原因となっており、これが物流市場にアウトローが侵入する要因となっているし、逆にアウトローが物流コストの二重価格を構造化しているとも言える。

 行政や警察の監視が弱ければ、模造品、偽造品、密輸品が横行する。これはアウトローの大きなビジネスになっており、正規品との間に価格が二重化する。これは極めて悪質な犯罪であるが、正規品が不当に高すぎるという背景がある場合もある。その典型が、中国で堂々と販売されているプリンター用のカラーインクやトナーの模造品である。模造することは中国でも犯罪だが、正規品が原価に対して不当に高いのも問題の背景にあると言える。
 ハイウェイカードや高速道路回数券の偽造券が横行する背景にも、高速道路料金が高過ぎるという問題があり、さらにその背景には高速道路の建設費や運営費が高すぎるという問題がある。この価格差の利益は、道路公団とファミリー企業との癒着や談合によって搾取されてきた。
 談合、カルテル、政治家の口利きの温床となっていた擬似社会主義も、情報公開の進展によって崩れ始めている。自由化された市場を監視するための行政の体制も、徐々に整ってきている。監視能力の拡充こそは、市場の自由化にとって、もっとも重要な課題である。監視なき自由化は、単なる放任主義であり、無法状態を将来してしまうことが必死だからである。

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