I-Method

アウトローとベンチャー

第3部 ベンチャーによるアウトローの超克
 第7章 価格差戦略
  3 二重価格の解消

3−1 アウトローとベンチャー


 経済学が理想と考える一般均衡が成立している世界に二重価格はない。しかし、現実の経済に一物一価はありえない。むしろ価格差があるからこそ、投資が誘発され、物流が活発化するエネルギーとなっている。
 価格差は、新規投資、増産、技術開発、輸入や移入といった市場メカニズムによって縮小と拡大を繰り返す。この変動こそが、経済の正常な姿である。
 しかし、二重価格が構造化されてしまうと、市場メカニズムが働かなくなる。
 二重価格は、法律による許認可や総量規制、行政指導、市場の独占や寡占、系列、商慣行など、さまざまな要因によって構造化される。
 アウトローもベンチャーも、構造化された二重価格に果敢にチャレンジすることは同じである。しかし、アウトローが二重価格を既得権化しようとし、起きて破りを厳しく取り締まるのに対して、ベンチャーは既得権の打破を目指し、あえて掟破りに挑戦する。
 たとえば、二重価格構造構造の典型である談合に対して、アウトローは保守的に、ベンチャーは革新的にチャレンジする。談合破りは、掟破りであり、脱談合にチャレンジした建設会社が、同業者から業務を妨害され、公共事業の指名競争入札から排除されるといったことすら起こっている。



 二重価格を脱構築していく方法として、一般競争入札やインターネット入札による脱談合、施工コスト管理による官民価格差の縮小、サービサイズ市場(リース・レンタル市場)による新品と中古品の価格差の縮小、プロジェクトファイナンスと金利自由化、情報公開(ネガティブ情報の公開、CSR、内部告発)、信用調査、業界ランキングなど、情報サービスの多様化が、同時並行で進んでいる。
 二重構造が固定化され、アウトローが独占してきた仕事に公共事業や民間事業、さらには一般の個人が参入することも増えてきている。
 総量規制の廃止、株式会社による病院経営、学校経営、農業経営などによる既得権の打破、行政の情報公開などの、規制緩和による市場の自由化は、アウトローの活動の場を確実に狭くする。
 既得権が守られている業界では、アウトローは、その隙間に入り込んで掟破りをすると同時に、掟そのものは二重構造の存在根拠として維持しようとする。まさにオモテとウラの二役を演じるのである。
 アウトローは、二重価格を維持しながら、その差益を独占しようとするのである。これがアウトロービジネスの本質であると言うことができるし、この点が、二重価格を破壊していくベンチャービジネスとの違いであるとも言うことができる。
 さらに踏み込んで言えば、アウトローをベンチャーに転ずることができるかどうかは、二重価格による既得権を維持するのか、破壊するかにかかっているのである。



 国際間の価格差は、物流コストに加えて、関税や非関税障壁が関係している。貿易障壁があることが、貿易アウトローに市場を与えている。物資の貿易だけではなく、人の出入国についても同じことが言え、入国管理局が厳しい入国審査をすればするほど、かえって密入国ビジネス、偽装・偽造ビザビジネスは拡張していくし、手口も巧妙になり、価格も上昇していく。
 企業の経営規模も、価格差の要因となる。一般に、大企業の商品の価格は低く、労働者の生産性は高い。しかし、これは経済学的が現象ではなく、元請と下請けの経営学的な現象であり、系列構造が価格差や生産性の格差の要因になっている。
経済のギャップを狙う
 アウトローは、二重価格を構造化しようとするが、二重価格を解消(脱構築)しようとはしない。二重価格がなくなれば、アウトローは市場から退場しなければならなくなる。このため、アウトローは二重価格のある市場への新規参入を阻止し、自由化を阻止しようとする。擬似社会主義システムは、政治家や官僚が市場をコントロールするために好都合なシステムであるが、皮肉なことに、それはアウトローの利益とも合致したシステムである。アウトローは、規制を無視しているがゆえに、規制緩和を望まないのである。
 ベンチャーは二重価格に注目する点では、アウトローと同じだが、ベンチャーの参入によって、二重価格は解消に向かう。ベンチャーはアウトローとは違って、市場の自由化を求める。規制緩和は、アウトローにとっては毒薬だが、ベンチャーにとっては強壮薬である。アウトローとベンチャーが似て非なるものであるのは、市場に与える影響を見れば両全である。逆に言えば、市場の二重価格を解消しないベンチャーは、実はベンチャーではなく、アウトローであると言わなければならない。

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