I-Method

アウトローとベンチャー

第3部 ベンチャーによるアウトローの超克
 第6章 アウトロー経済学
  1 不法投棄の経済構造

1−2 横流し中間処理施設…首都圏周辺


 不法投棄を、穴屋・まとめ屋・一発屋といった末端の登場人物の犯罪と理解してはいけない。不法投棄は、廃棄物を集めて横流しする許可業者や、許可業者も無許可業者も含めて、不法投棄ルートの全体をコーディネートする暴力団が影の黒幕を演ずる構造犯罪である。
 とくに何十万立方メートルにもなる大規模な現場では、許可業者が横流しの拠点にならなければ、それだけの量の廃棄物を確保できない。不法投棄は産廃業界の構造として組み込まれていたのである。
 横流しの拠点になっていたのは、主として中間処理施設であり、次いで積替保管施設が多かった。首都圏では、こうした施設が東京を中心に半径30キロ程度のドーナツ形のエリアに集中していた。

 売上高50億円級の大規模な中間処理施設ともなると、50台もの10トンダンプが毎日集まり毎日出て行く。1日に10トンダンプ30台を不法投棄現場に横流しすると、1年間で10万トンの不法投棄現場が1つできることになる。不法投棄の全盛期には、首都圏だけで、1000万トンの横流しが行われていたと推定されるので、こうした横流しの拠点となっている施設が単純計算で100か所あったことになる。実際には、その10倍以上の数の小規模な横流し施設があった。
 横流しには仲介者によるピンハネがつきものであり、その相場は1トン千円程度なので、1000万トンの横流しをすれば100億円になる。これはヤクザの大きな資金源になっていた。
 一方、不法投棄の全盛期でも、全国統計は年間40万トン程度で推移していたわけだから、横流しされた産廃の100分の1程度しか、不法投棄として発覚していないことになる。大半の不法投棄はさまざまな偽装の手口によって摘発を免れ、そのごく一部が何年もたってから全国最大級の不法投棄現場として問題になっているのである。

 不法投棄の中継拠点として許可業者が関与していたことを見抜けなかったのは行政の立入検査の甘さに責任がある。許可業者から無許可業者への横流しは委託基準違反、許可業者から許可業者への横流しは再委託基準違反という違法行為になり、立入り検査で事実を掴めば、許可を取り消すこともできるし、刑事告発することもできるし、
 しかし、これを見抜くには、廃棄物処理法で定められた書類の検査だけでは足らない。横流しをしている施設の最大の特徴は、入荷量が処理の能力を大幅に超過していることであるが、それだけでは不法投棄の直接的な証拠にならないので、出荷先(委託処分先)に許可あるかどうか、出荷先の法定書類がなかったり、偽造したりしていないかどうか、出荷先への支払額や支払方法などについて、調べて行かなければならない。不法投棄ルートは、無許可業者への委託、特定の収集運搬業者との結託、低料金、前金払いや現金払いなどが特徴だからである。
 入荷量、処理量、出荷量を定量的に把握する検査には長時間を要する。廃棄物処理台帳が未整備の施設が多いので、マニフェスト(産業廃棄物管理票)を一枚一枚積み上げて、マニフェストが作成されていない受委託量を推定したり、会計書類を検査して、無許可の出荷先や安価な出荷先を探したりしなければならない。最後には領収書を一枚一枚確認していくことになる。なんらの書類も作られていない現金取引の不法投棄でも、領収書だけは残っている。さもなければ社長のポケットマネーで不法投棄をやることになってしまう。
 こうした緻密な検査ができる担当者が養成されていなかったために、許可業者の横流しが事実上の放任状態となっていたのである。これを個々の担当者のやる気の問題にしてはいけない。これは性善説に立って業者の自己申告に委ね、監視能力を軽視してきた日本の行政風土の問題である。監視者の事実上の不在は、証券のインサイダー取引でも、補助金の不正受給でも、行政のどの分野でも、不正行為がはびこる最大の要因になっている。

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