I-Method

アウトローとベンチャー

第3部 ベンチャーによるアウトローの超克
 第6章 アウトロー経済学
  3 アウトローのベンチャー化

3−1 アウトローは必要なのか、悪なのか?


 アウトローは必要なのか、悪なのか? あるいはアウトローは必要悪(必要な悪)なのか?
 これは、アウトローの問題を考える上で、最大のパラドクスであり、永遠に解決しない哲学的なテーマである。
 犯罪のない社会はなく、犯罪者の組織としてのアウトローが存在しない社会もない。 必要悪は、必要な悪ではなく、必要を満たしている悪に過ぎない。悪によらずに必要を満たす方法を確立すれば、悪は必要がなくなる。
 金融アウトローは、金融業界が金融ニーズを満たしていないことから生ずる。産廃アウトローは産廃業界が産廃処理ニーズを満たしていないことから生ずる。
 市場に必要悪がある状態とは、アウトローがニーズを満たしている状態であり、アウトローを含めて需給がバランスしている状態である。この状態で、規制の強化、取締りの強化を行うと逆効果になる。需給ギャップがますます大きくなるからである。
 もしも市場に必要悪がある場合には、警察的な対策ではアウトローを排除できない。この場合には、経済的な対策が必要になる。

 法律は、その概念の中に、すでに法律を破る者がいることを含意している。それが罰則である。罰則のない法律は、単なる綱要に過ぎない。法律があるから、法律を破る者がいるのではなく、あらかじめ法律を破るものがいることを前提として、法律があるのである。法律とは、それに従わない者がいるからこそ、それに従わせることが必要になる社会のルール(規範)である。もしも法律に従わないものがいないとしたら、法律はそもそも必要なくなってしまう。法律を破る者が存在することは、法律にとって必要なことである。

 犯罪が必要悪であるという考え方は、法律が犯罪を必要とし、社会が犯罪を必要としているということを意味するが、これは逆立ちした議論であって、実は犯罪が法律を必要としているのである。いわば犯罪にとって法律が必要悪なのである。ただし、すべての法律が必要悪なのではない。いわゆる悪法というものがある。悪法とは、守れない法律、守ってはならない法律、守るに値しない法律である。犯罪は、悪法を必要としている。破るに値する法律があれば、そこには必ず犯罪が発生する。それはあたかも、法律の不完全性が犯罪による補完を必要としているかに見える。残念ながら、どんな法律も完全ではありえない以上、どんな法律もなんらかの意味で悪法であり、そこには犯罪が侵入する余地がある。
 犯罪は必要悪なのかというパラドクスを説く鍵は、犯罪の側にではなく、法律の側にある。
 アウトローは必要悪なのかというパラドクスを説く鍵も、アウトローの側にではなく、社会の側にある。完全に自由な社会もなく、完全に平等な社会もない。社会は矛盾に満ちた不完全なものである。そこにアウトローが必要悪として存在する理由がある。犯罪やアウトローがそれ自体で必要悪なのではなく、法律や社会の中に必要悪としての犯罪やアウトローを呼び込む矛盾があるのである。

 犯罪が悪法から派生し、アウトローが社会の矛盾から派生しているとすれば、犯罪やアウトローをなくすには、法律や社会の矛盾を解消しなければならない。
 法律が不完全であり、社会に矛盾があるかぎり、アウトローが、必要でもあり、悪でもあり、必要悪でもあるというパラドクスは解決できない。しかし、それは法律や社会の矛盾から派生する必要を満たす悪であって、それ自体が必要な悪なのではない。いわばアウトローとは、必要と善の矛盾状態である。
 必要は、善である。必要は人が生きるための必須条件であり、経済の成立根拠である。アウトローが必要を満たしているということは、アウトローが善であって同時に悪であるという論理的な矛盾状態であるということを意味する。
 ここにアウトローが必要悪であるという矛盾状態を解消するヒントが隠されている。必要悪の必要の部分は否定せず、悪の部分を、善に置き換えていくのである。
 そのためには、必要悪を悪としてではなく、必要として評価する価値観の転換が求められる。アウトローが満たしているニーズを否定せず、そのニーズを適法な方法で吸収し、アウトローの市場を正規の市場が奪還すればいいのである。
 これはベンチャーの役割である。アウトローがはびこっている状態は、悪貨が良貨を駆逐している状態と言われることがある。それを逆転させ、ベンチャーがアウトローを駆逐する(良貨が悪貨を駆逐する)ことが、アウトローからの市場の奪還である。これこそが経済を活性化させる市場の役割そのものである。こうした市場の役割が阻害されているところに、アウトローははびこり続ける。これが市場の失敗である。

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