I-Method

アウトローとベンチャー

第3部 ベンチャーによるアウトローの超克
 第6章 アウトロー経済学
  3 アウトローのベンチャー化

3−2 アウトローとベンチャーは同じである


 アウトローの常識的な見方に対して、逆説的な見方は、アウトローにも積極的な存在理由があると考える
 アウトローがビジネスとして成立しているという現実があり、アウトロービジネスによって充足されている経済的な需要があることを否定できない以上、アウトローの市民権を簡単には否定できない。
 アウトローに積極的な存在理由があるといっても、それは決してアウトローが行っている非合法活動を容認するものではないし、ましてやアウトローを賛美するものではない。
 むしろアウトローには存在する理由があるという現実を直視する逆説的な見方こそが、アウトローをアウトローでないものへと転換していく道につながる。
 
 アウトロービジネスとベンチャービジネスは、合法か非合法かの別はあるにしても、社会、法律、市場の盲点を探し、それをビジネスに生かすという視点は共通である。
 日本にはベンチャービジネスが育たないとよく言われる。本当に日本にはベンチャーが育っていないのか、検討してみる余地がある。
 日本ではアウトローの組織が、合法と非合法の境界線上で、さまざまな経済活動を行っている。アウトローの本来の存在意義は、もちろん非合法ビジネスにある。麻薬、覚醒剤、ミンボー、売春、不法入国、密輸、銃器販売、ヤミ金などが、その典型である。
 しかし一方で、日本のアウトローは、建設業、運送業、荷役業、金融業、廃棄物処理業、旅行業、芸能界、ゴルフ場、パチンコ店、風俗店、リラクゼーション店、露天商など、さまざまな分野にわたって合法的なビジネスも行っている。ときには違法行為を含む、こうした事業を行うためにヤクザが設立した企業は、フロント企業(表向きの会社という意味)あるいは企業舎弟(ヤクザの子分の会社という意味)と呼ばれている。
 私たちは、ごくありふれたビジネスや生活の場で、こうしたアウトローの経済活動とたくさんの接点を持っている。官庁が道路を建設するとき、企業が社屋の建設を発注するとき、ノンバンクから事業資金の融資を受けたり、サラ金から生活資金を借りたりするとき、バーでお酒を飲んだり、カラオケを歌ったりするとき、休日にゴルフを楽しむとき、マッサージで疲れを癒すとき、それがアウトローの経済活動と全く無関係であるとは言い切れない。たとえば行きつけの寿司屋はヤクザとは関係がなくても、入居している雑居ビル(ソシアルビルとも言う)のオーナーや、ビルを建てるときに介在した不動産業者や建設業者は、ヤクザと無関係ではないかもしれない。
 日本はヤクザが多くて犯罪が少ないという、犯罪大国アメリカから見ればパラドキシカルな国である。日本の暴力団はアメリカのマフィアの何倍もの構成員を抱えている。それなのに犯罪はアメリカの何分の一かである。この数字だけを見ると、ヤクザが犯罪に対してあたかも自主規制をしているかのように見える。もちろん、こういう見方は間違っている。むしろ、暴力団に単なる犯罪組織以上の存在価値を認め、広範な経済活動を許していることに問題がある。
 日本のヤクザの特徴は、合法・非合法のさまざまなビジネスで社会のニーズを現に満たしているという事実を否定できないことにある。このことが日本のアウトロー対策を、単なる犯罪対策、暴力団対策よりもずっと複雑なものにしている。
 日本のアウトローには、根絶しなければならない犯罪組織としての側面と、日常生活とかかわりの深いビジネスの担い手としての側面の両面がある。しかも、それが渾然一体、密接不可分になっている。
 アウトローが行っている合法的な経済活動は、とりもなおさずベンチャービジネスである。だから日本にはベンチャービジネスが育たないのではない。ほとんどあらゆる産業分野で、アウトローがベンチャーの役割を果たしているために、ベンチャーがつけいる隙がないのである。それでも稀にはアウトローを退けて成功するベンチャーがある。日本のベンチャーは、法律の隙間を狙うだけではなく、同時にアウトローの隙間を狙わなくてはならないのである。

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