I-Method

アウトローとベンチャー

第3部 ベンチャーによるアウトローの超克
 第6章 アウトロー経済学
  2 経済的アウトロー

2−3 市場の失敗の構造化


 古典的な経済学では、完全競争によって価格が一つに決まる(一物一価が成り立つ)としている。しかし、完全競争は現実にはありえないし、仮に完全競争に近い状態の市場があったとしても、商品の種類が多彩であるため、やっぱり一物一価はありえない。
 証券や外国為替のように、画一的な商品であっても、取引市場が世界各地に分散しており、現物取引、先物取引、指数先物取引、オプション取引など、市場の種類も多彩であるため、価格は一つには決まらない。
 かつては、購入した証券や外国為替が値上がりするのを待って売るロングポジションが投資の基本だったが、現在では情報技術の進展により、市場間の価格差を、その日のうちに確定した利益に結びつける裁定取引が、大きなウェイトを占めるようになっている。それでもなお、情報の遅れや思惑の差があるかぎり、価格は常に一つではありえない。
 証券市場や外国為替市場のようにルールが明快な市場ですら、一物一価を前提にした経済理論では説明することが出来ない。ましてや経済現象の全体を説明することなど全く不可能である。
 現実の経済現象を説明するには、価格が一つではなく、むしろ価格差があることが経済にとって不可欠の利益の源泉であるという前提に立った新しい経済学が必要である。これは多重価格経済学、あるいは多重均衡経済学と呼ぶべきだろう。

 価格の多重性は、経済にとって本質的なことであり、どんなに公正な市場でも価格は一つには決まらない。
 経済理論が説くように一物一価は市場経済の理想ではないが、計画経済的な手法を使えば一物一価を実現することができる。これが公定価格であり、日本では公共料金などの認可性によって実現している。また、カルテルや談合による公共事業の予定価格と落札価格の一致のように、非市場的な方法で、一物一価を実現する方法もある。
 日本経済が社会主義経済であるといわれる所以は、一つには業界に対する中央集権的な行政指導があり、序列や系列が維持されていることがあるが、もう一つには、公定価格、公示価格(公示地価)、カルテル価格(公認カルテル、黙認カルテル)、談合価格によって、公共部門(官需)や準公共部門(民需だが公共性が強い事業で、許認可で規制されている部門)に、ほぼ一物一価が成立しており、しかもこの両部門でGDPの過半を占めるという現実にある。これは擬似社会主義経済と呼ぶべきだろう。

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